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Chapter20
「あの馬鹿者が」
ライゼンが、頭を抱えて呻く。
「つくづく、訳の分からない男だ。サライナに何と説明しろと……」
あれから数日後、ユウガミラの町の近くまで、援軍を従えて進軍してきたヒサンゴの将軍が、使者旗を手に、空から舞い降りてきたゴーレムを前に、言った。
「とにかく、ご苦労だったな。お前も大変らしいが……」
「大丈夫。ヒサンゴの皆は元気にしてる?」
「ああ。おかげ様でな。だが、こちらも復興中で、予定よりかなり遅れたが……」
久しぶりに会った、だが何故か一人で降り立ってきたカザカミを見て、不吉な予感が隠せないライゼンが、溜息を押し殺す。
「明日には到着するだろう」
「前みたいに、地脈は使えないけど、南の丘からまっすぐユウガミラまで進んでほしいんだ。じゃないと、地形に色々と細工がしてあるから」
「了解した」
「きっとリュウゼンの軍隊も襲ってくると思うけど、私達が引き付けておくよ。じゃあ、私は戻らなきゃ」
「ご苦労だな」
久しぶりに見たこの『大地の子供』が、どこか以前と異なっているような気がして、ライゼンはもう一度カザカミを見る。そして、短く聞いた。
「救助は」
「………明日になったら、私が」
「そうか。頼んだぞ」
カザカミが、頷きながら唇を噛みしめた。
「うん。急がないと。宮殿に行く道は、町の皆に教えて貰った」
空の彼方を仰ぐ、この人ならざる存在の表情は、どこかサライナのそれに似たものを思わせる。
「心配か」
「うん………」
巣に帰ってこない親鳥を心配する雛のそれとも似ている金色の瞳が、星の様に揺れる。自分の年上の友人が冗談とも本気とも取れぬ口ぶりで「妻」とも「娘」とも呼んでいたこのゴーレムを見つめ、
(このカザカミにとっては過酷な時だろう)
ライゼンは少し表情を緩めて、ぽん、と背中を叩いてから言ってやった。
「急いで行ってやれ。あの男は無茶をしすぎる」
「そうだね。じゃあ、ライゼンさん、本当に、ありがとう」
カザカミが頭を下げてから、石質の巨大な翼を広げて舞い上がる。巨大な鳥のようなそのシルエットをしばし眺めてから、ライゼンは息を吐く。
「急がねば」
そして、陣営内へと踵を返して早足で歩いていった。
巨大、かつ壮麗な宮殿の門の前で、ヒイラギは息を吐き出した。
「資源の無駄だ」
金や銀、珍しい輝石で彩られた門を見て、彼は目を細める。
「他の錬金術師達が、対策を練っている」
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