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視力の良いカザカミには、彼らのうち数人は、自分の師匠を連れ去った人物達と同一であると映る。だが、師匠の方に人手を割いているのか、予想よりは少人数でもあった。敵味方問わず、兵士達がざっと後ろに交代する。長い足にくくりつけた短剣を後ろ手に抜いて、カザカミが聞いた。
「私の師匠は、どうしてる?」
手に杖を掲げた魔法使い達が、笑う。
「さあな。三十六回廊へ放り込んだ」
「三十六回廊?」
その言葉を聴いて、ヤガラミの顔色が変わる。
「………一部屋に一つの仕組みが備わっている、悪名高いリュウゼンの宮殿の三十六の拷問部屋です」
カザカミが、目を見開いた。
「一日に一部屋、既に4部屋進んだ。まだ生きているぞ」
「………それをわざわざ、知らせに来てくれたの?」
短剣の切っ先と、魔法使いが向けた杖の先が、空中で交差する。
「『怒りに任せて人を殺すな』。私がこの約束を守っていられるうちに、帰ったほうがいいよ」
今この平原の反対側では、ライゼン達がユウガミラの町に入営している最中だろう。
「成る程。大層な理性を持ち合わせているようだな、土塊よ」
「誉めてくれてありがとう。目的は何?」
「お前だ」
「………え?」
カザカミだけでなく、彼女とヤガラミの後ろにいたユウガミラの兵士達も目を見開く。ヤガラミが言った。
「カザカミ嬢の戦闘能力、という事でしょうかね………」
「然り。ほかにもある」
「他にも?」
魔法使い達の杖が一斉に光る。カザカミがはっと目を見開いた。
『四素封印、大地、その手足を封じよ!』
カザカミが棒のように立ち尽くす。反射的に、ヤガラミが馬上から飛び降りて、体重の重いカザカミにそのまま突進した途端、赤い閃光が辺りを覆う。
「ヤガラミさん!!」
先程までカザカミが立っていた地面の土が、さらさらと溶け、水もないのに泥のように流れ出す。
「……やはり、人には効かないようですね。危ないところでした」
全身の体重をかけて、カザカミを後ろへ突き倒したヤガラミが振り返る。
「ごめんなさい。一瞬体が動かなくなって……」
「封印魔法とやらはあなたに有害だとヒイラギ殿から言付かっております。大丈夫ですよ」
ヤガラミが立ち上がり、再び呟いた。
「この剣も無事でしたしね」
敵からは魔剣とも恐れられる、ヒイラギの残した剣を魔法使い達に向けて、
「あなたは行くでしょう。たとえそこに何が待ち受けていても」
ヤガラミが笑う。
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