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「『三十六回廊の最後の部屋は、死の扉』。急ぎなさい。向こうにも魔法使いは多々待ち受けている様子ですが、恐れないで進むのですよ。我々の事は気にせずに」
「でも……」
剣を向けたまま、ヤガラミが言う。
「あなたはここで、よく頑張ってくれました」
「………」
「戦闘兵器ではなく、我々の仲間として」
「ありがとう」
「あなた方がいないと非常に寂しい。いつかは戻ってきてくださいよ」
カザカミが、立ち上がる。そして、片腕に巻いていた対魔法用の布をほどいて、そんなヤガラミの肩にかけながら、言った。
「………戦場で、『戻ってくる』っていう約束は、時々すごく残酷なものになるってヒイラギさんが言ってた」
「そうですね」
「でも、戻ってくるよ。約束は、出来ないけど」
ヤガラミが、背中越しに笑う。
「そうですね。よろしいでしょう。では、行きなさい。我々の勝利の女神にして、大地の化身よ」
そして、付け加えた。
「そして、あの彼に、大いに口づけのお礼をしてくるのですよ」
草原の町の隊長と、その配下の兵士達が、囃したてるように歓声をあげる。
「………やっぱあれって、お礼しなきゃいけないんだ」
熱した石のように耳まで真っ赤になりながら、カザカミが唇に手を伸ばす。
「もちろんです。あなたの唇からも、この世で一番甘いものを、差し入れてあげなさい。さあ!」
「………うん。本当に、ありがとう!」
カザカミが皆に笑いかけてから、唱えた。
『大地の翼、ビヌーナス、風を纏いて飛べ!』
そして、風と共に一気に舞い上がる。
「逃がすな!」
一斉に魔法使い達が空へと杖を向けるが、
「ようこそ我らの町へ。我らの『娘』の逢瀬は邪魔させませんよ、魔法使い」
砂煙の中から、カザカミの纏う布と同じ、魔法を防ぐ白い布をマントの様に纏い、魔剣を持ったヤガラミが、口元に笑みを浮かべて斬りかかる。
「我々が、しばらくあなた方を歓迎致しましょう。もちろん、我々の流儀で」
「草原の卑しい民が小癪な真似を……皆の者、かかれ!!」
砂煙と共に、敵味方入り乱れた激しい剣戟の嵐が響き渡った。
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