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たとえヒイラギを助け出せたとしても、おそらくは、自分達二人を仲間だと呼んでくれた彼らの元へは、戻らないだろう。もう二度と会うことはないかもしれない町の皆、一人一人の顔を思い浮かべながら、
「だから皆、無事でいて」
思わずそう口に出して呟き、彼女は地上を見下ろした。硬い翼が風を切る音だけが、耳に響く。
「私は、ゴーレムだからヒイラギさんに忠実なのかな」
そうじゃない、と何となく思うが、やはり、一抹の不安は否めない。
(もしも人間だったら、どうだったんだろう………)
ふと、ヒサンゴの町で出会った美しい女性、サライナの事を思い出す。あのように、美しい睫や唇、しなやかな腕などが備わった自分を想像しようとして、
(…………何かダメっぽいや)
空を飛びながら、思わずカザカミは肩を落とす。
「それに、別に……今はそういうの、なくっても、いいよね」
思わずそう一人ごちるが、どこかそれが羨ましいと思う心も否定できない。この、『羨やむ』という、最近になって新たに覚えた感情に、今更ながらふと気がついて、何故自分は、こういった事を感じる心を持って生まれてきたのだろう、とカザカミは考える。
(ヒイラギさんも不思議がってたし、ヒサツさんも驚いてたし………)
他のゴーレムを見たことがないせいか、自分が特別製だと言われてもピンとこない。宮殿へ向かって飛びながら、
(それに、もし私がゴーレムじゃなくって、普通の人間で、普通にヒイラギさんに出会ってたら、どうなんだろう……)
こんな時だと言うのに、彼女は思わず考える。どこにも留まらないヒイラギとは、町でたった一瞬すれ違うだけだったかもしれない。
(そんなの、想像も出来ない)
しなやかな腕がなくても、今はただ、あの師匠と共に歩んでいけるだけの、そして今は、あの師匠を助け出せるだけの、丈夫で逞しい腕があればいい、と、自分なりの結論を出し、
「急ごう」
彼女は、更に速度を上げた。
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