Chapter22

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「だが、それで良い。昔は神殿の彫像、更にその昔、大地に息づく硬い一つの岩であった頃から、彼女は『生きて』いたのだろう。息づき、脈を打つ大地の一員として」 「それを………呼び起こしたのが、あなただと」 「良い表現だ」  自分の、おそらくは孤独に苛まされていたのであろう心から、それを埋めるように生まれてきたカザカミは、 「俺の為に生まれたが、決してあの愛し子は、俺のものではないのだろうな」  一人でそう呟いて、彼は目を閉じる。 「秘密を解くも何も、俺はお前の魂をあまりにも知らない」 「………」  アシナダが、口を閉ざす。そして、しばらく言葉を探した後に、言った。 「僕も、婚約者の魂を知りません。ですが、彼女のことを、丸ごと愛しているつもりです。きっとそれは、魂も込みです。魂は、見えませんが、身体も、心も、彼女の持っているもの全てに、僕は首っ丈です」  ヒイラギが思わず目を開けて笑う。 「盛大なのろけ話だ。全てに、か」 「全てです。魂ごと、魂で、愛してます。彼女も、多分、それなりに……」 「そこで弱気になるとはな。大成できんぞ」  少し気弱そうな若い魔法使いが笑う。 「人は、いつか出会う誰かの為に生まれてくるものだ、と祖父は言っていました。僕も、そう思います。だから………」 「そうだ。その誰かを、己の魂をかけて、愛すればいい」  自分の口から出た言葉が、自分の乾いた五臓六腑に、奇妙に大きな音を立てて響く。ヒイラギは思わず言葉を止めて、誰ともなしに呟いた。 「愛、か」  アシナダが不思議そうに壮年の錬金術師を見上げ、口を開きかけたところに、扉の開く音と共に鋭い声が飛んでくる。 「こんなところで何をしている、アシナダ」  ぎょっとしてアシナダが振り返ると、魔法使い達の長がそこには立っていた。目を細めて、ヒイラギは素早く先程差し出された水杯を、そっと、魔法使いに見えないように、牢の外に蹴り飛ばしてから言ってやった。 「少々説教をしてやっただけだ」 「説教?」 「節制と節約の心得をな。元素を無駄に使う魔法使いへの戒めだ。それより、何の用だ? 我が愛し子が迎えに来てくれたようだが」 「帰してもらえるとでも思ったのか?」 「否。だが、そろそろ帰ろうかとは思っていた」 「出来るものならやってみるが良い。アシナダ、この男の『愛し子』が近づいている。お前も行け」 「え、は、はあ………」
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