10人が本棚に入れています
本棚に追加
まっすぐ襲い掛かってくる竜へ向けて一言そう呟いてから、彼女は剣の一本を力いっぱい投げつけた。赤く燃える短剣が腹に命中し、竜が凄まじい咆哮をあげる。そのまま、もう一本の剣を手に、カザカミはそのまま突進する。そして、腹に刺さった剣を、力いっぱい、足の裏で更に蹴り込めた。そして、もう一本の短剣を、仰け反った竜の喉へと両手で突き通す。観客達の歓声と共に、竜が地響きを立てて倒れ伏した。
「何で………」
息を整えなおして闘技場の中央に視線を投げて、彼女は目を見開く。
「ヒイラギさん……!?」
中央に立っている杭に、鎖と縄で縛り付けられているのは、まぎれもない自分の師匠だった。淡い金髪が乱雑に切られ、いたる箇所から血を流したまま、杭に張り付けられている。
「…………いやだ、ヒイラギさん、返事して!!」
真っ青になりながら、カザカミは急いで駆け寄ろうとするが、
『四素封印!』
自分にとってはこの上なく不吉な、魔法無効化の呪文が響く。はっと振り返ると、闘技場の隅に、魔法使い達が陣取っている。飛び交う赤い光を必死で避けて、中央まで辿り着き、カザカミは息を呑んだ。
「ひどい………」
熱を発する鎖が、肌に食い込んでいる。歯を食いしばったまま気を失っているヒイラギを見て、カザカミが泣きそうな顔になりながら、唱える。
『四の二、優しき水……』
ところが、
『炎よ、渦となりて覆え!』
その真後ろから、炎の渦が直進してくる。とっさに、ヒイラギが縛られたままの杭の根元を渾身の力で蹴り折って、それを両腕で抱きかかえると、彼女は地面へと倒れこんだ。
『四の三、猛々しい炎よ去れ………』
自分の耳元で、懐かしい声がする。
「………カザカミか」
鎖から、熱が引いていく。
「無茶しないでって、言ったのに。馬鹿………」
「言葉遣いが………悪くなったな、我が弟子よ」
「ヒイラギさんのせいだよ………」
炎を抑えるので精一杯らしいカザカミが、翼を広げて炎を弾き、自分を覆っている。
「何の為に、私がいるの?」
「………」
「私がいるんだから、無茶したら駄目だよ。お願いだから。私は、ヒイラギさんの、辛い事や、痛いことを、引き受ける為に生まれてきたんじゃないの? それなのに、ひどいよ………」
熱で柔らかくなった鎖を引きちぎって、竜の血がついた短剣でロープを切る。
最初のコメントを投稿しよう!