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「私は、土や水で治っちゃうけど、人間の体はそうはいかないんでしょ? もっと、自分を大事にしてよ……」
「怒っているのか」
「すごく。すごく怒っていいって、昔、アキツさんから、教えて貰ったんだ」
鎖や縄が体から離れても、体はうまく動かない。カザカミがアキツから教わったものは、何の心得だっただろうか。思い出そうとして、息を吐く。
「…………すまんな」
「謝らないでよ」
「すねているのか」
「………だって」
「そうか。お前は、まだまだ子供だな………」
カザカミが、息を吐く。背中の翼に吹き付ける強烈な炎が、そろそろ翼の強度を超えつつあった。炎こそ直接吹き付けてはこないものの、熱波に囲まれたヒイラギが、苦しそうに胸から息を吐いた。
『優しき四の二、水よ……』
「駄目だ、カザカミ!」
呪文を唱えかけたカザカミを、素早くヒイラギはさえぎる。
「………水は使うな。今この状況で水を出したら……お前の体が持たない」
「え……」
「熱疲労だ。大地は、急激に熱した後に一度に冷やせば、割れる」
カザカミが目を見開く。
「………同じことを考える奴はいると見える、カザカミ、下がれ!!」
はっと身構えると同時に、
『水よ、溢れ出よ!』
今度は背後ではなく、前方の魔法使いから、水の渦が襲い掛かってくる。ヒイラギを抱えあげて、
『今しばらく耐えよ、ビヌーナス!』
翼で上方へと舞い上がる。
『四素封印、撃墜せよ!』
舞い上がった自分達を目掛けて、すかさず魔法無効化の呪文が放たれる。
「しまっ………!!」
大地の翼が撃ち抜かれ、二人はそのまま地面へと落下する。
『空を駆ける四の四、風、受け止めよ!』
風が沸き起こり、二人の落下速度が緩まると同時に、ヒイラギが、瞳に流れ込んだ血で霞む視界を堪えて唱える。
『全百十五素封印、遮断せよ!』
二人の周りに、透明な結界が張り巡らされる。術を唱えた途端、肺の中にたまっていた血液が逆流し、彼は大きくむせ帰った。
「ヒイラギさん!」
「無茶をしすぎた。あまり持たない」
透明な結界が、赤い光や炎、そして荒れ狂う水を弾き返す。カザカミが、闘技場の地面に降り立って、息を吐いた。
「………この中では回復も出来んがな。この結界は大地の力も遮断する」
ヒイラギが、口の端の血を拭って苦笑する。
「笑ってる場合じゃないよ……」
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