Chapter23

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 意思のない瞳が、ゆっくりとこちらを見る。そして、カザカミのそれよりは数倍も太い腕が、脆くなりつつあった結界へと振り下ろされる。ガラスが割れるような甲高い音が響きわたった。ヒイラギを抱えたまま後ろに飛びずさり、カザカミは目を見開く。 「私と同じ………」  だが、自分の体の数倍もあるゴーレムを見上げる。ぼこり、ぼこりと土が盛り上がり、見る見るうちに二人は取り囲まれていく。観客達の声が嵐のように沸きあがる。巨大なゴーレムの繰り出す拳を避けながら、カザカミは師匠を抱きかかえたまま、立ち往生する。 「カザカミ、躊躇するな。あれは、お前とは違う」 「で、でも………」 「俺はもう大丈夫だ。降ろしてくれて構わない」  壁に寄ろうとも、壁側には錬金術師や魔法使いが取り囲んでいる。先程自分が蹴り倒した杭を両手で拾い上げ、カザカミはそれを力いっぱい地面に再び突き刺した。そして、杭の影に、まだ全快しきっていないはずの師匠を横たえてから、カザカミが唱える。 『大地の緑、四の一、豊穣、汝の子がここに願う。その力をここに………』  緑色の体力回復の光が、ヒイラギを包む。 「お前は本当に優しい」 「ありがとう。でも…………そんなことないよ」 「何?」 『緑の封印、閉じ込めよ!』 「…………なっ、カザカミ!?」  カザカミが、足を踏み鳴らす。途端に、ヒイラギの足元から緑の光が吹き出した。光が、円を描いて彼の回りを取り囲み、一気に沸きだした緑色の蔦が、彼の体を絡み取る。 「そこにいて」 「………まさか俺を閉じ込めるとは」  思わずヒイラギが、久しぶりにこめかみに指を当てて呟きを漏らす。 「そうでもしないと、ゆっくり回復してくれないんだもの。ごめんなさい」 「馬鹿者め………」 「師匠がヒイラギさんなんだもの。しょうがないよ」  カザカミが笑う。そして、折れて半壊した石の翼がかろうじてまだ残っている背中を向けて、巨大な同族に、彼女は視線を投げる。意志のない視線が、返ってきた。その意志をもたないはずの視線が、何故か自分を責めている様に感じてしかたない。 『大いなる四の一と四、大地と風よ………』  鈍重な見かけよりもずっと素早く、襲い掛かってくるその腕を避けながら、彼女はひらりと身を翻して、 『質量を抱きし刃となれ!』  重力を纏った刃を無数に繰り出した。
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