Chapter24

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「この闘技場に『女』が運ばれた場合は、大概において皆、それを期待する」  ヒイラギが無意識のうちに、自分の指を、先程『回復魔法』が吹き込まれた唇へと伸ばして、目を閉じた。魔法使いが、赤く光る杖をカザカミの胸元に押し付ける。魔法無効化の苦痛に耐えかねて、くぐもった悲鳴を上げて身をのけぞらせた『大地の娘』を見て、 「別にお前に何の落ち度があるわけでもない。お前の師匠の不徳が招いた事態だ」  魔法使いが、ヒイラギに視線を投げて笑う。 「お前が、彼を閉じ込めてくれて大いに助かった」  カザカミが、首を振った。胸元の肌が音を立てて割れて広がり、じわじわと溶けていく。同じように、魔法を防ぐ効果を持った布が、音を立てて溶け出した。必死で、抵抗を試みるも、四体の同族にそれぞれ両手と両足を押さえ込まれ、地面に背中を押しつけられて胸には魔法の杖を突きつけられている。 「暴れれば、衆人に肌を晒すこととなるぞ。石塊」  身に纏っていた布がずるりと溶け落ちて、滑らかな石質の肌と、無駄のないフォルムがその下から現れた。捻りあげられた腕と両足に、ひびが入り、苦痛と屈辱で地面に立てた突き立てた指が、音を立てて折れていく。他の魔法使い達が、自分の師匠を取り囲む。 「近づくな……その人に近づいたら、許さない」  四体に押さえ込まれてもなお、激痛に身をよじりながらカザカミが呻く。 「それは愛か。そしてお前は娘か」  ヒイラギが唇を噛みしめる。唇の端から、うっすらと血がにじみ出るが、それをも労るように、カザカミの残した結界の光が、優しく彼の唇を撫でる。 「……あんたなんかに、答えない」  五体目の同族が、彼女の上にのしかかり、割れて崩れていく胸元に容赦なく手甲を突き刺した。耐えがたい苦痛に悲鳴を上げ、胸で溶けて体の中で逆流した砂を大量に吐き出し、金色の目を見開いたまま力無く、ひび割れた四肢を弛緩させて意識を失っていくカザカミに、なおも同族が次々に襲いかかっていく。服が引きちぎられ、卑猥な笑い声が場内の観客席、そして五体のゴーレムをそれぞれ操る錬金術師達の間からも上がる。 「さて、錬金術師殿。お前は閨で石を抱く趣味があるか否か、我が王が問うているぞ」  緑色の蔦で全身を縛り上げられているヒイラギが、暗い瞳を、ゆっくりと魔法使いに向けた。そして、数秒の間の後に、ゆっくりと答える。
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