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そんなある日のことだった。
60年以上もこの王宮の兵卒や侍女達をまとめあげている侍従長に突如呼び出され、夕刻の食事もそこそこにやってきたヤンの前に、不思議な形の見慣れぬものが鎮座していた。
「これは?」
侍従長が、白く長い髭を指先で整えながら大仰に背を反らして言う。
「ミストル・ファトル五の姫ライラ様のお輿である」
島に自生する軽くて丈夫な木で作られていたそれは、人間一人がすっぽりと入る大きさの、鳥籠の様な形をした一人用の天蓋付きの輿だった。
「この、鳥籠のようなものがですか」
台座には美しい彫刻が、天蓋の布には島でも珍しい金糸で刺繍が施されている。どうやら、島の統治者の輿を担ぐ、という仕事に突如抜擢されたらしい。
何の前触れもない突然の名誉に驚くが、侍従長は背を反らしたまま言う。
「すなわち、おぬしのような男には過分な名誉である」
「勿論、心得ております。この広い肩がお役に立つでしょう」
「体を清めて準備せよ。これがおぬしの仕事じゃ。覚えておくように」
侍従長が懐から取り出して渡して寄越した紙には、事細かに注意事項が綴られている。ヤンは首を傾げて呟いた。
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