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表面上は穏やかな遣り取りを交わしつつ、フレデリックとロイクの手元の攻防は徐々に過熱していった。引鉄を引けばすぐにでも実弾が飛び出す拳銃がふたりの間を行き交う。
やがて諦めたように両手をあげたのは、フレデリックの方だった。その形の良い顎の下にピタリと銃口をあてられたまま、フレデリックは静かに目を閉じる。
「参ったな。あなたに勝つには、まだ数年早かったようだ」
「数年とは殊勝だね。君の右に出る者はいないと聞いていたけれど? フレッド」
「あなたを除けば、ね」
「そうあるために僕を殺した?」
「ええ。クリスはその気になればいつでも始末できる。けれど、あなたはそうはいかない」
溜息とともに吐き出せば、くすくすと、フレデリックとよく似た笑い声が頭上から降ってくる。
「それなのに君は、重大なミスを犯したという訳だ」
「まったくだね。あの時の僕を僕は殺してやりたい」
「ふふっ。それは、覚悟を決めたという意味かな?」
「覚悟も何も、この状況であなたから逃げられると思うかい? いくら僕でもどうしようもない」
殺したければ殺せと、そう思うフレデリックである。どちらにせよロイクが本気であれば、言った通り逃げられないことくらいは理解していた。
「強情なのは相変わらずだね。命乞いくらいしてみせたらどうだい?」
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