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マフィアは望んで欲に溺れる。
イギリス。サウサンプトンの港では、大型客船『Queen of the Seas』がその優美な姿で人々の視線を釘付けにしていた。
すでに出航の準備に取り掛かっているクルーが忙しなく動き回る中を通り抜け、与えられた自室の前でフレデリックは背後から声を掛けられた。振り返れば、男が一人立っている。
その端正な顔を目にした瞬間、フレデリックは時間が止まったような気がした。
「やあフレッド。久し振りだね」
「……ロイ」
フレデリックと同じ金色の髪に碧い瞳。フレデリックよりも八センチ高い身長と、一年ばかり年上の男の名はロイク(Loic)。穏やかな雰囲気を纏って立つ男を、フレデリックは驚いたように見つめた。
あまりにも唐突な再会に、呆然としていればロイクの顔には苦笑が浮かぶ。
「ゴーストにでも出会ったような顔をしているね」
ゴースト。フレデリックにとって、それはまさしくその通りだった。ロイクは十一年前、フレデリックが殺したはずだ。
「何故…」
「何故僕が生きているのか…って? それを説明するために僕はここに居る。長い話になりそうだし、君の部屋で話をしようか」
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