マフィアは望んで欲に溺れる。

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 が、しかし、フレデリックは大きなガラスの向こうにロイクの背中を見つけて立ち止まった。どうやら、ロイクも自己管理を欠かさないタイプのようだ。  やれやれと大きなガラスを回り込み、トレーニングエリアへとフレデリックが足を踏み入れればロイクが振り返る。 「やあフレッド。よく逃げなかったね」 「あなたのことだ、気づいていると思いましたよ」 「それにしても、わざわざ君の方から僕の元にやって来るなんてどういう風の吹き回しかな?」  アブダクターから降りてこちらへと歩み寄ってくるロイクを、フレデリックは微笑みながら迎えた。 「恋人に早く会いたいと思うのは、いけない事なのかい?」  出港してすぐのトレーニングジムに人が居ないのはいつものことだった。これから世界一周の船旅に出ようという乗客で、真っ先にジムに向かおうという人間は皆無だ。  誰の視線に晒される事もなく、フレデリックはロイクへと手を伸ばす。 「それとも、僕よりもトレーニングの方が重要かな?」  ロイクの頬を撫でながら通り越し、無人のカウンターへと歩み寄ったフレデリックが手元のパネルを操作すれば、大きなガラスをブラインドが覆った。  僅かに薄暗くなったジムの中で、フレデリックは今しがたロイクが使用していたアブタクターへと腰を下ろした。ウェイトの設定を横目で確認すれば溜息が漏れる。     
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