隣の芝生は青く見えて

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********** 「賞をとったんだ、俺も作家デビューするんだよ」  それから久我は一息にドリンクバーのジュースを飲み込んだ。昨夜、突然彼から電話があり、飯でも食べに行かねえかと誘われた結果がこれである――食事すると言っても、高校生らしく安めのファミリーレストランなのだが。 「本当はアルコールとか飲んでみてえけどな、流石に未成年だし」こういうのは酒盛りの雰囲気なんだがなあ、と彼はため息を漏らした。 「それで、俺を呼んだ理由は?」 「言っただろ、来月から久我隼人改め、久我琥珀の名で作家デビューだって」 「そうか」  よかったな、とまでは言えなかった。俺には素直にそう言えるだけの心の広さはない。むしろ、自分本位でそう語る彼を心底恨めしく思っていた。心の奥底で蠢く感情を誤魔化すように、俺は注文したパスタを口に運ぶ。 「いやあ、念願叶って卒業までに賞獲れたぜ。ギリ十代作家、嬉しいねえ」 「ああ」 「中学ん時は想像もしなかったな。やってみりゃどうにかなるもんなんだな」 「……そうだな」  本人は嬉しさで周りなど見えていないのだろう。適当な相槌を打ったところで気づかれないというのは、ある意味では好都合であった。彼の話を聞きながら、味のしなくなったパスタを行儀悪く啜って、無意味な咀嚼を繰り返す。  本当のところは、彼も話が聞いてもらえるなら誰でも良かったのかもしれない。たまたまそれが俺であっただけだ。――いや違う。彼からすればともに切磋琢磨した仲だからか。礼儀というべきか義務というべきか、そう考えればこの会話の当たり前のものであった。  その当たり前が、心に刺さる。  今回のコンクールではたまたま運が悪かっただけだ、と必死に自分に言い聞かせる。大丈夫、まだ結果の出てないコンクールなどいくらでもある。今回は無理でも、そこで追いつけるはずだ。  そう思おうとしても、久我に先を越されたのはどうしようもない事実であり、今なお俺が受賞していないのも同じように否定できない現実であった。 「――それで、受賞通知が来た時はよ」 「……ああ」  やめろ。そう言いたかったが、久我の表情を見て、無下にとめることもできなかった。こちらの気も知らないで、こいつは――。
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