高校生最後の日

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 雪がまだ降る季節。東京なんかは暖かくて、桜が咲いているんだろうなと考えていた。私は三年間通い続けた高校を今日、卒業する。  四月からはそれぞれの選んだ道に旅立ち、新しい大学へと進む。 「おーい、拓也(たくや)。お前、どこだっけ?」 「星北(ほしきた)大学」  他愛もない男子の会話に、コッソリと耳を傾けた。星北大学は東京にある大学で、彼はスポーツ推薦で合格を勝ち取ったとクラスメイトが騒いでいたのを覚えている。拓也君自身は『たまたま』だと言い張るのを、彼の友達が自慢していた。  星北大学は国公立で、彼が合格したと訊いて一般入試を受けたけど、私の頭じゃ全然ダメだった。だから、拓也君を近くで見られるのも今日が、最後になる。 「いいの? 千恵(ちえ)」 「何が?」  さっきもらったばかりの卒業証書が入った黒い筒で、私の背中を突いてくるのは友人の真央(まお)だ。 「最後に想いを伝えなくても」 「三年間、友達でいてくれてありがとうまおちん」 「あたしじゃなくて」  頭を掴まれ、グリンッ、と無理矢理に向きを変えられる。御蔭で具備がピキッと嫌な音を鳴らした。 「拓也君の方だって」 「えー……いいよ」 「遠慮しなくてもいいのに」 (別に遠慮なんてしてないけど……)  彼は多くのクラスメイトに囲まれている。楽しそうに笑っている拓也君の顔を見れるのも、今日で最後。  私の片想いも、今日で終わり――  そんなことを考えていたら、拓也君と目が合った気がした。思わず視線を逸らしてしまう。手の甲で顔を隠すと、少しだけ熱い。 「そもそも、あたしとあんたは同じ大学でしょ」 「そうだったね。また楽しい学校生活を謳歌しようね」 「バカね」  当たり前でしょ、と軽く額を小突かれ、私は唇を尖らせた。
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