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★☆
記念に一枚、と校門の前で自撮りしたまでは良かった。
まおちんとその場で別れてから、あることに気付く。大事な――実際はそれ程でもないけど――卒業証書が入った黒い筒がない。どこで落としたのか、辺りを探している内に机の中に入れたままなのを思い出した。
(高校生活最後になんてマヌケなことを……)
私は溜め息を吐き、踵を返す。もう通うことはないだろう、と思った高校の玄関のドアを押し開けた。
校舎の中は日中の賑わいが嘘のように、今はとても静か。薄暗い廊下に、誰もいない教室。卒業式は三年のイベントなので、下級生は登校していない。
こんなにも静かな学校は初めてで、何だか新鮮――を通り越して、不気味だ。まだそんなに遅くない時間だからいいけど、夜になったらと思うと……怖いから早く卒業証書を取りに行くに限る。
教室のドアを開けて、自分の机に歩み寄る。椅子を後ろに引いて、中を覗き込む。暗い机の中にポツンと取り残された卒業証書が、私が戻ってくるのを待っていた。手を伸ばして、指先に筒が当たった、その時――
「何してんだ?」
「――っ!?」
突然の声に驚いて、思わずその場にひっくり返る。手にはしっかりと卒業証書が入った黒い筒を掴み、転がされた亀のようにお腹を天井に向けて、目を丸くした。
「……何してんだ?」
私のマヌケな姿を見て、笑いを堪えているのがわかる。声をかけてきた相手が、私の近くまでやって来た。覗き込んでくる顔が少しだけニヤけているのが、陰で暗くなってもハッキリとわかる。
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