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第二章 バスカヴィルの犬〈二〇五五〉
-零
「おい。」
「アッはいッ。」
一瞬にして全身が強張る。
血が廻る。
心臓が揺れる。
「お前さ。」
やばい。
ミスったか。
でも、なにを。
ああ、わからないッ。
それがやばいッ。
「は・・・い。」
なんとか返事の言葉を喉の奥から引っ張り出し、その背中を口の外に向かって突き飛ばした。
拳の中に、汗が滲む。
「好きか。」
「・・・・・・・・・・は。」
「ラーメン。」
ら、らーめん。
らー、めん。
「だから、ラーメン。」
「・・は、はぁ。」
「好きか。」
「・・いや・・まあ、どうでしょう。」
「え、嫌いだったか。」
「え、いや、まぁ。」
全身の筋肉がとろけるように緩み、一瞬意識が遠のくのをグッと捕まえる。
「なんだよ、はっきりしないな。」
やばい。
「いや、あの、ラーメンって、こう、好きとか、嫌いとか、そういうのが関係する食べ物では、ないというか。」
だァッ、間違えたッ。
なんで簡単に好きですと言えないんだよッ。
後方からコップを机の上に着地させる音がした。
その後は沈黙が部屋中に蔓延り、これだったら叱ってくれたほうが楽だと思ったことに、大変驚く自分がいた。自らの新たな一面に気がつくのは、こんなタイミングじゃなくてもいいのになぁ。
そんな思案をしていると、しばらくしてから、ああ、まあ、なんとなくだが、わかる気もする、と先輩が呟いたことで、口角が急激に緩んだ。
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