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『バレンタインも過ぎた日に ~ White day ~』 ※R15
女性チームが連名で配るチョコレートを受け取る。それが社内におけるバレンタイン・デーの慣習だった。それ以外にこっそりとチョコレートを渡される場合もあり、二十代の盛りの頃はそれを機に、複数の関係を楽しんだものだった。
そうこうして三十で身を固め、四十で離婚。現在はバツイチ独身。今ではそれなりの肩書をもち、据え膳にはおいそれと手を出すこともなくなった。
そもそも自分には現状、恋の相手がいる。――――たぶん。
仏滅の木曜日。バレンタイン・デー。新堺悟は通常通り仕事を終わらせ、赤い紙袋に十数個のチョコレートの箱を詰めて帰宅した。明けて金曜日は仕事に忙殺され、土曜日の午前は週の総括と残務処理、及び翌週の事前準備と打ち合わせに追われた。
午後にはおおよその仕事を片付け、一息ついて、社内のスポーツジムで汗を流した。このあたりでようやく、一瞬間を乗り切った実感が湧いてくる。
それから気分を切り替え、予約を入れてあったマッサージ店、リラクゼーション・アロマ新宿店へ赴いた。なんだかんだとあったものの、新堺は結局は、この店が好きだった。
下着一枚で施術台に俯せ、施術帽から奇抜な髪型をはみ出させた小柄な若者にマッサージを受ける。奇妙な喋り方のくせ、奇妙に人懐こい奇妙な見た目の都賀誠司というこの若者にも、気付けば一年近く世話になっている。
「ではまたー、来週待ってますんでー」
甲高く間延びした愛想の声に、また頼むなと愛想を返した。新堺がべた惚れした施術師には及ばずとも、都賀の腕もそれなりで、今はこの生活に満足している。
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