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フロントの青年、森口に見送られ、狭いエレベーターでテナントの一階へ降りた。チン、と涼やかな音で分厚い扉が開き、遠く聞こえるピアノアレンジのオールディーズへ足を向ける。
「……石鹸チョコレート?」
ビルの出入り口に間口を広げたバラエティショップ。
行きには気付かなかった、甘い香りに目を向けた。
通路に面したブースの、デコレートされたワゴンの中に、青と白でデザインされた箱がびっしりと敷き詰められていた。
その上に置かれた籠には、華やかなポップを添えた、内容物の見本品だろう、ビニル包装された白い塊が三つ。
『とっても柔らか! 体温でとろけます(はあと)』
バスグッズ、と併記された下には、美肌、保湿、温浴効果アップ、リラックスなどと効能が謳われている。
なるほど、アイデア商品なのだろう。
石鹸にしか見えないそれをしげしげと眺め、小さな箱を一つ、手に取った。
裏返して読む説明書きには、『本品はチョコレートです、そのまま食品としてお召し上がりいただけます』と、但し書きがある。
「――――」
ふと浮かんだ虎ノ門の、最愛の施術師の柔らかな男前顔に、新堺は口の端を引き上げた。
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