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石鹸、と偽り持ち込んだ白い塊が、温かな浴室に、甘い芳香を漂わせている。
「チョコなんだよ」
「そうなんですか?」
目を丸めた男の素直な表情に、新堺は満足の口角を上げた。
この男、端来勇也は、何事もソツなく気の利く良い男だが、端正な面を持つわりに中身は素朴で好感がもてる。
「舐めて」
「え」
嫌そうに目元が寄った。
平和を好む保守的ななイケメンゲイの正直な反応に、まあそうだよなと納得し、溶け出した石鹸もどきの表面を舐め上げた。
「甘い」
「あまり舐めないほうが。胸焼けしますよ、新堺さん」
「だな」
舐めて。
二度目の要請に、勇也の薄い口元が嫌そうに引き結ばれた。
甘いものは互いに得意でなく、逃げ道を探る男前の困惑の眼差しも、理解できなくはないが。
右の中指を白い表面に滑らせ、もったりとした雫を集めた。
白い粘液が太い指を伝い落ち、血管の浮く甲に垂れていく。
「――――」
向き合う瞼が伏せられた。
悩ましげに寄った眉がふるりと震え、傾いた頬骨に喉を鳴らした。
手首の向こうに唇が触れ、ちゅうと、白い雫を吸い上げる。
熱い舌が肌を這う。
丹念に、白い雫を舐めあげる。
「甘いだろ」
「――甘いですよ」
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