紫煙をまとって

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涙は出ない。 知っていたことだから。 ふと、先ほど見かけた飲み屋に向かう団体が目の前を横切る。 それを見て私がここに来てからさほど時間が経ってないことを知った。 その団体を見ていると、一番後ろを歩いている女の子が目についた。 少し嫌そうに眉をハノ字にしている。 それを気付いていながら引っ張る先輩らしき男や、見て見ぬふりをしている女。 それを眺めていてハッとする。 私は、さっき彼と彼の彼女であろう女を見つけるまで、周りが見えていなかったのだ。 それと同時にもう一つ気付いた。 私は彼のことが、周りが見えなくなるくらい好きだったのだ。 その事実が分かり、私の目から一筋、涙が伝う。 その涙の流れた跡を3月の煙草の煙の混じった冷たい風が撫ぜ、冷たく冷やした。 頭上には半月にも満月にも満たない中途半端な形の月がコンビニの灯りよりも弱々しく、だがしっかりと輝いていた。
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