紫煙をまとって

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朝方。 太陽の光が弱々しくカーテン越しに部屋に入って来る頃が、貴方の帰る時間だった。 窓辺がだんだんと青白く光り始めるのを、私はずっと横になりながら見ていた。 その光が真っ白になる前に、貴方は身を起こし、服をまとい始める。 その様子を私は寝たふりをしながら見ていた。 横になりながらも見える狭い台所の換気扇をつけ、貴方が古い銘柄の煙草を吸う。 口から吐かれる薄紫色の煙がぐるぐると高速回転する換気扇に吸い込まれていく。 それを私は尚も寝たふりをしながら見ていた。 煙草を1本吸い終わると、貴方は足音を潜めることなく、私に近付く。 そこでようやく私は今起きたようにけだるげに身を起こす。 「おはよ」 短い朝の挨拶には貴方はいつもキスで返す。 「行くわ」 そのキスの名残も消えないうちに、貴方はそう言って私に背を向けた。 行かないで、ここにいて。 なんて、陳腐な言葉を並べることはない。 貴方はそれを望んでないし、私も言うつもりはない。 紫煙は換気扇に吸い込まれてしまったものの、鼻の中を燻すような臭いは未だに残っている。 この煙の臭いが私は好きではない。 台所の窓を開け、私は煙の臭いを出す。 台所に手を置いたとき、コツンと指先に何かが当たった。 見ると、彼の煙草の箱だった。 中身はまだ入っているようで持ち上げるとカサカサと音がした。 小さくため息が出る。 時計を見るとそろそろ朝の準備をしなければならない時間だった。
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