温度は嘘つき

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「な……、に、してんの」  マリアはもう何度目になるか分からない問いを尋ね、たった今作られたばかりの傷口に触れる。 傷口は未だどくどくと脈を打っているものの、やはりショックが大きかっただけらしい、傷口はそう深いものではなかったのか、既に血は止まりかけているようだった。 だが相変わらず、少年はまるでマリアの存在そのものを気にかけることはない。少年はちらりともマリアの方を向く事はなく、テキパキと自分のなすべきことを進めている。  大きく開かせた足の間に少年は座り込み、死体の腕がだらんと下に降りるように調整する。その際、どうしても変な方向に腕が固まっていたのが、気になったのだろう。ぐいぐいと人体構造的に曲がらない方向に何度も曲げようとし、ぐちゃっという音と共に腐りかけた肉をかき分け少年の思い通り、真下へと垂れ下がるように死体の位置を調節する。  これで、少年の希望は全て叶ったらしい。 「………あぁ」  少年は閉じられたままの死体の目をじっと見つめ――、正面から死体に抱きついた。 「……何、を」  痛む頭をまだ押えたまま、目の前にある異常な光景から目を離せない。目の前に広がる光景の異常さは、マリアにも容易に理解できた。     
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