温度は嘘つき

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先ほどより幾分か慎重な手つきで「それ」の周りの土を除け、目的の物を掘り進めていく。だが「それ」は、随分深く埋められていたのだろう。結構な量の土を退けたというのに、中々全貌を現してくれない。 それでも少年は、根気強く土を掘り進めていく。  ただ一つの目的を欲するように、無心に土をかき分ける。  ざくっ、ざくっ、ざくっ かっ 「あ……っ!」  不意に響いた軽い音に、少年が感嘆の声をもらす。ようやく「それ」の全てが、ようやく地表へとさらされた音だ。  少年はシャベルを投げ出し、汚れる事も構わず「それ」の上にかかる細かい土を払う。そして固く閉ざされている蓋を持参したハンマーとのみで強引に破壊し、ぐっと手を掛けた。  ぎぎぎっ、という音と共にゆっくりと蓋が開く。その際にわっと嫌な臭いが辺りへ広がるも、少年の表情は変わらない。 ただ天使のような純朴な笑みを浮かべ 「こんばんは! 君は僕を愛してる!!」  眠る死体に、愛を強要した。 ?  偶然の重なりが、少女を現実から叩き落としたとしか思えない。 ・ ・ ・ 「おい、知ってるか? 最近、墓荒らしが出たらしいぞ?」  夜の足音さえも聞こえてきそうな夕暮れ時に、背後から聞こえて来た話し声。その聞き覚えがあり過ぎる声音に少女――マリアの足が止まった。 「えー? 聞いたことないんですけどー。ってかさぁ、それどんな話?」 「あ、聞きたい感じ? 聞きたい感じ?」     
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