温度は嘘つき

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 だがそれにしても、何時の間にこんなところまで来ていたのだろう。 「………っ」  びゅう、と吹いた夜風が肌を刺す。マリアはとっさに自身を抱きしめ、じっと墓石に囲まれた周りを観察する。 幸い、今日は満月だ。幾ら夜といえども、全く周りが見えない訳ではない。その事実だけが、突然降って湧いて来たような今の状況に安心を与えてくれた。  ――誰もいない  だが人っ子一人いない墓場に、たった一人。月明かりだけが照らすこの現状で、ようやく付いてきた理解が、マリアの体をこわばらせる。  夜の墓場というのは不気味なものだ。そこはただの空間であり場であるはずなのに、死体の眠る人気のない場所だというだけで本能的な恐怖を呼び起こしてくる。  こんな場所で誰かに会うのも、それはそれで怖い。だがこんな場所で全くの一人というのも恐ろしいものだ。  どうせ怖いのなら、いっそ誰かいないものか―― ……くっ、……くっ、…ざくっ 「……だれか、いるの?」  風に乗せられてきたのだろうか。 どこか遠くから幽かに耳へ届いた不可解な音に、マリアは問いかける。だが返事はない。 「………だれ、なの?」  マリアはしばし逡巡した後、音のする方向に震える足を向ける。     
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