温度は嘘つき

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 「穴を掘っている」ように見えた、というのも間違いではなかった。 「なに、してるの?」  マリアがともすれば消え入りそうな声音で、三度目の問いかけを行う。  事故的に直視をしてしまったマリアですら、この現状を理解する事はまだできていなかった。  一体、誰がこんな事を予想していただろう。  影にしか見えなかった少年がサンサンと光る満月の下で一人――墓を掘り返していただなんて。 「ひっ、ぃ……!?」 「……うるさいなぁ」  突然の出来事に放心して短い悲鳴をあげかけたマリアの目の前に、シャベルが見えた。 その瞬間に感じたガンっという鈍い音と、強烈な痛み。その衝撃に耐えきれずに地面へ仰向けに倒れ込めば、胸から顔面にかけてを全力で地面とキスする羽目となる。 ここに来てようやく、この少年が力一杯シャベルで殴ってきた事が分かった。 「うるさいよ。今、良いところなんだから黙ってて」  生ぬるい液体が、マリアの顔を伝う。  なんとか上体を起こそうとするが、しかし当たりどころがあまり良くなかったのだろうか。それとも目の前の光景に、完全に動揺してしまっているのだろうか。っ全く力の入らない足はこの場から逃げることすら許さず、ただへにゃりとその場で座り込むことしかできない。     
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