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片桐清三は弟子の出立を静かに見守る
五縄流柔術の現宗家、片桐清三の家宅は人里離れた竹林の中にある。
元々は昭和の初期に孟宗竹を切って生業とした家柄で、当時は羽振りも良かったようだが外国産に押されて廃業し、屋敷も売りに出されたという。確かに一般的に見れば築年数も卒寿を越えて、立地条件も良くない屋敷ではある。
しかし片桐はこの家屋を見るや『この風情や尚良し』と気に入り、そのまま買い取って移り住む事にしたのだ。
木漏れ陽に隠れる庭の外れには小さな納屋があり、片桐はここを改装し、床を拵えて茶室として使っている。
なるほど外面はただの古びた納屋候ではあるが、中はそれでも素人仕事とも思えぬ茶室の風情に仕上げてあった。茶の趣味人ともなると最後は茶室を持つの夢とされるが、その点で言えば片桐は『夢を叶えた』と言えるのかも知れない。
さて、本日は珍しくもその茶室に客人を招いている。無骨でいかにも武術家の風情を漂わせるが、まだ歳の若い男である。
客人は先程より、じっと目を閉じて茶釜より滲み出るフツフツと湯を沸かす音に耳を傾けていた。
特に何をするでもないし、手に得物がある訳でもない。
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