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首元を掴まれたまま、桜生の身体がまるで川の水が滝を下るがごとくに大繁の足元へ滑り込んだのだ。
「うぉっ!?」
体勢を崩されて前のめりになり、大繁は慌てて掴んだシャツを離そうとするが、どういう訳かシャツが指に食い込んで抜けなくなっている。
何っ……これは!
『ワザと掴まされたのだ』と気づいた時には、もう遅かった。
桜生に背後へ回り込まれ、そのまま足を取られると。仰向けの姿勢で思いっきり顔から畳へ叩きつけられてしまった。
「うぐっ……!」
前受身を取ろうにも、謀ったかのように右手は奪われている。
不覚にも叩きつけられた頭部が畳で跳ねて、視界が歪む。
周囲がその動作に驚愕する中、瞬時にして右足首を絡め取った桜生の『次の行動』に一切の躊躇はなかった。
グキ……ッ!
道場に、普段の稽古では絶対に聞く事のない異様な音が響く。
「うっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
大繁が脛を押さえて悲鳴を上げる。
右足の指先が、180度回転して膝裏の側へ向いていた。
「……っ! コ、コイツ……部長の足首を……お、折りやがったぁ!」
道場の空気が瞬時にして凍りつく。
『近代武道』は……いや、現代は格闘技全般にしてからが、相手を『壊す』ことを意図していない。『その一歩手前』で止めるのが『通すべき筋』なのだ。
だが、この男は何の躊躇もなく、その『暗黙の了解』を破って見せた。
「コイツ……何者なんだよ……っ!」
思わず一歩を引き下がる部員達に戦慄が走る。
「……だから言ったのだ、『怪我をするから止めておけ』と。で……次は誰だ?『揉んでやる』んだろ……」
ゆっくりと、まるで獲物を品定めする獣であるかのように、桜生が部員達を見渡した。
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