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総掛かりとて相手が悪いという事は
『あまりに大きな戦力差は、時として卑怯にさえ映る』という。
「や……野郎っ、生かしちゃおけねぇ! 全員で行けっ! だだで帰すな!」
号令を掛けたのは、副部長の木暮だった。
もうこうなると、正々堂々も私刑も無い。
怒りに我を忘れたとも言えるが、だがそれは決して賢明な判断であるとは言えなかった。
木暮とすれば、いかに相手が並外れていようとも『これだけの人数差』で掛かれば、圧倒的に制圧出来ると楽観視していたのだ。
だが、現実は木暮の想像を遥かに超えていた。
桜生は、今まで木暮達が出会ってきたいかなる格闘家にも分類不可能な存在であると言える。
何しろそれは、審判による判定など一切を必要としない生粋の『殺人術』なのだから。
『囲われた』かのように見えた桜生だったが、あっという間に部員たちの間をすり抜けると、その気配は霧散するかの如くにどこへともなく消え去った。
「ど……どこへ行ったっ?!」
慌てる部員達がキョロキョロと探し始めた時。
「ぐわっ!」
いずこからともなく短い悲鳴と『ドタン!』という何が倒れる音が聞こえた。
「そこだっ! そこにいるぞ!」
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