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「……選ぶがいい」
桜生が残った部員達に選択を迫る。
「このまま残って、オレに潰されるか……それとも逃げ出すか……だ」
『脱兎の如く』という例えを用いるのなら、この瞬間こそ『それ』に適切なものは無かったであろう。「うわぁぁぁ!」という絶叫を上げながら、残った部員達が我先にと道場を飛び出していく。
残されたのは、副部長の木暮のみであった。
だが、木暮とて戦闘意思があったのではない。部員達を『けしかけた』手前、先頭を切って逃げ出す訳にも行かず、出遅れた結果として『残った』形になったのだ。
ずい……と桜生が木暮の元にやってくる。そして、ハッキリと分かるほどに震えている木暮の足元を見てニヤリと嗤うと、ポンとその肩を叩いた。
「……残りの部員を逃がすために残ったか。その根性だけは褒めてやる。……早く、救急車を呼んでやれ」
それだけ言うと桜生は踵を返し、そのまま道場を後にした。
楠源一郎が学校に戻った時。校門は警察と救急車、それに大勢の野次馬でごった返していた。
「何かあったのか……?」
胸騒ぎを覚えて、楠は道場へと急いだ。
「あ……っ!楠先輩っ」
道場の手前で、後輩の部員が呼び止める。
「どうし……うっ! これは……!」
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