38人が本棚に入れています
本棚に追加
楠の前に、異様な光景が現れる。
『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが、道場のぐるりを囲んでいる。
入り口付近には明々と回転灯を回している救急車の脇で、白衣を着た救急隊員が慌ただしく怪我人の搬出に追われていた。
「そっちはどうだ?! もう、一刻を争う患者はいないかっ?!」
救急隊員が大声で叫んでいる。
「何が……何があったんだ……」
楠は呆然とその場に立ち尽くした。
「うう……すんません……楠先輩に『用がある』っていう、おかしなヤツが来て……自分ら、総掛かりだったんですが……歯が立ちませんでした……」
震える拳を握りしめ、後輩が泣き崩れる。
「おかしな……ヤツ……?」
「はい。長身で目付きの悪い不気味なヤツでした。申し訳ありません……」
『心当たりがある』としたら、それは一人しか居ない。
栗田先生の言っていた『桜生』とやらだ。間違いあるまい。
「信じられん……。何てことだよ……」
栗田先生は『桜生を侮るな』と言っていたが、まさか『これほど』とは。
三〇名を超える現役大学生の柔道部員の総掛かりをモノともしない、ケタ違いの戦闘力もさる事ながら『桜生』とやらには常識という概念は無いのか……。
最初のコメントを投稿しよう!