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「病院送りにされた連中はまだ、ロクに話が出来る状態じゃねぇっつーし、逃げ延びた連中の話もなぁ……どうも支離滅裂でよく分からんのだよ。ホントに相手は単独犯なのか……」
冷たい夜風が、道場に吹き込んで来る。
玄関の戸板は外され、全ての窓も窓枠から外してある。
「ええ……単独犯ですよ。この場合、人数は問題になりません。強い・弱いではなく『相性が悪い』という事です。何しろ、相手は最初から『殺人上等』で掛かってくるのですから。心構えというか……『違う世界の住人』なんですよ、彼は」
「『決闘』ってヤツなのか? よく分からんな……戦国時代じゃあるまいしよ……」
ザザザ……と、風が木々を揺らす音がする。
「『殺人上等』か……流石に『死人』は出なかったみてーだが、『一歩手前』のヤツが六人も居るって、さっき病院から連絡が来たよ。医者も中々と商売繁盛だな……」
こうして待っていると、どこからともなく相手が襲ってくるような、そんな薄ら恐ろしい気もしてくる。
「……気配がありますね……近いですよ?」
眉をひそめ、楠が辺りをうかがう。
「ん……? 何か、見えるのか?」
「いえ……姿はありませんが……気配がします。中の様子をうかがっているのかも知れません。山下さん、巻き添え食らわしても申し訳ないですから引き上げて貰って結構ですよ?」
楠の言い方は、まるで熊か虎のような野生動物を相手にした猟師のようであった。
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