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「いや……オレは残るよ……。お前らが『これ』を傷害ではなく武術の『申し合い』だと主張するってンなら、何かあった時にオレが証言しないとな……」
山下はそう言うが、本心は別のところにあった。
『暴れる相手を制圧するのであれば、発砲もやむ無し』である。
大怪我をさせられた柔道部員達は、山下にとっても可愛い後輩である。冷静さを装ってはいるものの、腹の底は煮えくり返っていた。
仮に楠がその『桜生』とやらを『申し合い』で半殺しにでもしてくれるのであれば、それでいいとしても。
仮に少しでも手こずるようであれば、銃弾の餌食にしてやろうと目論んでいたのだ。いかに鍛えた身体であろうと、鉛玉相手にはそれこそ『相性が悪い』というものだ。
窓を外してあるのは楠の仕業である。
そうしておく事で、視界を広く確保するためだ。
或いは何らかの方法で窓を割り、その衝撃にこちらの眼が集まった瞬間を背後から狙うという手も、充分に有り得ると楠は読んでいた。何しろ『五縄流』とはそういう流派なのだ。
「いるな……」
楠の声にピンとした張りがある。
ザザザ……ザザザ……と木々が風を切る音が激しくうなる。
「マジかよ……」
山下が息を呑む。
「クソったれめ……『いる』ってんなら、隠れてねーで、とっとと出て来やがれってんだぜ!」
思わず、山下が大声を上げた時だった。
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