道場は静かに対決の時を待つ

3/4
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
「いや……オレは残るよ……。お前らが『これ』を傷害ではなく武術の『申し合い』だと主張するってンなら、何かあった時にオレが証言しないとな……」  山下はそう言うが、本心は別のところにあった。  『暴れる相手を制圧するのであれば、発砲もやむ無し』である。  大怪我をさせられた柔道部員達は、山下にとっても可愛い後輩である。冷静さを装ってはいるものの、腹の底は煮えくり返っていた。  仮に楠がその『桜生』とやらを『申し合い』で半殺しにでもしてくれるのであれば、それでいいとしても。  仮に少しでも手こずるようであれば、銃弾の餌食にしてやろうと目論んでいたのだ。いかに鍛えた身体であろうと、鉛玉相手にはそれこそ『相性が悪い』というものだ。  窓を外してあるのは楠の仕業である。  そうしておく事で、視界を広く確保するためだ。  或いは何らかの方法で窓を割り、その衝撃にこちらの眼が集まった瞬間を背後から狙うという手も、充分に有り得ると楠は読んでいた。何しろ『五縄流』とはそういう流派なのだ。 「いるな……」  楠の声にピンとした張りがある。  ザザザ……ザザザ……と木々が風を切る音が激しくうなる。 「マジかよ……」  山下が息を呑む。 「クソったれめ……『いる』ってんなら、隠れてねーで、とっとと出て来やがれってんだぜ!」  思わず、山下が大声を上げた時だった。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!