桜生は楠源一郎と対峙する

2/6

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
いや、もしも本当に『そう』だとしたら、その嗅覚と発想は最早、人間のそれではない。犬と同等……いや、論理的に頭が働く分だけ『それ以上』だ。  山下は、その想像にゾッ……とした。 桜生は、相変わらず壁際でじっとしている。 「おう……随分と『やってくれた』そうじゃないか……」  じわり、と楠が間合いを詰める。  初めて見る顔ではあるが、コイツが『桜生』だと確信出来る。この異様なまでの殺気は、それ以外に考えようが無かった。 「部員達は無関係なんだぞ? それを……」  桜生は『構え』をとっていない。やや前傾姿勢のまま、両の腕をだらりと下げている。 「ふん……喧嘩を売ってきたのは『そちら』の方だ。オレはただ、それを『買った』だけだな……」  桜生の居る場所には外の明かりが届いていない。故にその表情までを読み取ることは困難だが、それでも嫌らしく嗤っているのが感じ取れる。 「ボクに『やる気が無い』と悟って、挑発したつもりかい? この代償は高くつくぞ……?」  更に、ズイ……と楠が間合いを詰める。  対して、桜生は尚も壁を背にしたまま微動だにしない。  普通に考えれば、壁を背にすることは決して得策とは言えないだろう。動きの範囲が制限されるからだ。  無論、桜生とて『それ』を知らない筈が無い。何かあるとのだとしたら……?  『蹴る』気か。  楠は考える。 
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加