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飛び蹴りであれば、その間合いは柔道のそれよりも遠くなる。であるとしたら、桜生の狙いはその場で飛び上がり、同時に壁を強く蹴ることで一気に間合いを詰める事では無いのか。
だとすると……狙いは『頭』か……。
倒された後輩の部員達のうち、何人かは頭を蹴られている。その跳躍力と蹴りの威力は確かなものだと見ていいだろう。
楠はジリジリと間合いを詰めながら、ガードを高く構えた。
……楠のヤツ、変わった構えだな。柔道の構えじゃぁねぇ……ボクシング? いや、どっちかつーと、ムエタイみたいだな……?
山下は固唾をのんで見守っている。
ガードが高い、ってぇ事は『頭』だけを警戒してるって事か……つまり、逆に言えば『そこ』以外なら打撃を受けても倒れないという自信がある……て話かよ。
『どう考えても組み合うのなら、自分に一日の長がある』
楠には、絶対の自信があった。
だとすれば、桜生としてはその『争い』の土俵にワザワザ乗る必要はない筈だ。絶対に自分が普段はあまり練習しない打撃での勝負を選択する……と読んでいた。
さぁ……何処で来る……。
だが、桜生は間合いを詰める楠に対して一向に動く気配を見せない。
ついに、二人の間合いは『組合い』の距離にまで縮まった。
くっ……何を考えてやがる!
楠が焦れた瞬間だった。
突如、桜生が動いた。
「何……っ!」
桜生の『先手』は、何と楠の道着の襟元を掴む事だった。
「……この野郎っ!」
侮辱された。
楠はそう感じた。
仮にも柔道で全日本選手権の有力候補とされる自分に対し、『柔道技』で挑むとは……。
楠の頭の中で何かがプチン、と弾けた。
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