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「くそがっ!思い知れ!」
電光石火の如く、楠の両腕が桜生の襟首を掴み返す。
そして、そのまま体を返すと一気に得意の大外で投げに入った。
「おぉりゃぁぁ!」
静寂の道場に、楠の絶叫が響き渡る。
同時に、バン!という何かを強く叩く音が楠の耳に入る。
……しまった! してやられたかっ!
気づいた時には、もう遅かった。
何しろ、これは柔道の試合ではない。素手同士の戦いとは言え『実戦』と名付けて過言には当たるまい。ならば、相手を畳に叩きつけて『終わり』という決着はないのだ。
更に言えば相手も素人ではない。受け身が可能な体勢からの投げであれば、そこから体を入れ替える事なぞ造作もあるまい。
まして……。
次の瞬間。
楠の腰から『重さ』がフッ……と、無くなった。
「えっ!」
一瞬、何が起こったのか楠には理解出来なかった。
投げられる途中、桜生は背後の壁を『蹴って』更に前方へ飛び出したのだ。
「させるかぁ!」
楠が選んだ次の『一手』、それは『右正拳』だった。
無論、公式試合においては柔道に打撃はない。
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