桜生は楠源一郎と対峙する

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 しかし、柔術に祖を持つ講道館柔道にも『当身』はあるし、まして自分は『何でも有り』の五縄流柔術の門下生なのだ!  大きく踏み込む左足と同時に、腰に鋭い回転を加えて右のストレートを繰り出す……が。 「……いないっ!」  その拳は、何も無い空間を打つに留まった。  気配を……消したか!  楠は瞬間的に振り出した拳そのままに腰を逆回転させ、己の背後に狙いを変える。  正面から姿を消した敵がもっとも『居る』確率が高いのが『真後ろ』だからだ。  そのまま『裏拳』で、自分の後ろに回り込んだであろう桜生を打ちに掛かる。  当てる必要はない、空振り上等。牽制にでもなれば、そこから次の攻撃を組立てる事が出来るという算段である。  だが。  パシッ……  道場に、乾いた音が響く。 「何っ!?」  楠の裏拳を読み切り、背後で距離を取っていた桜生が、その拳を難なくキャッチする。  そして、桜生はそのまま体を入れ替えて楠の足元に滑り込み、そのまま腕を取って倒れ込んだ。 ……しまった!  『図られた』と気づいた時にはすでに遅く。  楠の左腕は『腕ひしぎ十字固め』に取られていた。 「な……何て柔らかい動きだ……」  山下は眼の前の出来事が信じられなかった。 「凄い……人間の動きじゃねぇ……まるで蛇……いや、猫みてぇだ……」
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