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山下は、いよいよ『最後の手段』を視野に入れざるを得なくなったと考えていた。
一方、桜生も山下の『雰囲気が変わった』事に気づいていた。
チラリ、チラリと山下の方をうかがっている。そして、身体を楠に密着させて、その背中で自分を庇うようにしている。
『撃ってくるつもりだろう』そういう読みが、見てとれる。
「うっ……」
読まれたか……山下が足を止める。
人間は何かを企てるときに、それが『最高の結果を生む姿』であれば容易に想像する事が出来るが、『最悪の状況に陥る』事は、想像は出来ても『考えないようにする』ものである。
この場合、桜生にとって『最悪』なのは『暴漢の制止』と称して銃で撃たれる事だ。
普通であれば『申し合いにそんな無粋な事はすまい』と考えがちだが、桜生は最初から『それ』を念頭に置いているのだ。
だが、これ以上は黙って眺めているわけにも行くまい。しかしながら、このまま撃てば当の楠に被弾する可能性がある。
どうするか……。
一瞬、山下は楠と眼が合った。
よし……!
山下は意を決する。
「楠いっ!ソイツを抑えとけぇ!」
山下の狙いを、楠は一瞬にして理解した。
そして折れた腕の激痛を『無いもの』として反射的に身体を捻り、桜生の胴体を抑え込む事に成功した。
「今だっ!」
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