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射撃の腕で言えば、山下の腕は署でも群を抜いていた。
如何にバレルの短いニューナンブとは言え、この二〇メートルにも満たない距離からであれば、もはや外しようがなかった。
ドキュー……ン!
道場に拳銃の発射音が大きく反響する。
バサバサバサ……。
外の木々に止まっていた野鳥達が驚いて逃げていく。
「やったか!」
山下が桜生の動きを確認しようとした……次の瞬間だった。
『それ』はまるでイノシシのような突進であった。
桜生の手首は悶絶する楠を打ち捨てて、一瞬にして山下の喉元に達していた。
「うぐ……っ」
山下は、後に『撃った後の事は何も覚えていない』と語っている。
何の前触れも口上もなく、桜生の『突き』が山下の喉を穿っていた。
だらり、と山下の手が下がる。
フラフラと、山下の腰から繋がる革紐に拳銃がぶら下がる。
「……」
「や……山下先輩っ!」
楠の呼びかけに、山下は反応しなかった。
「ば……馬鹿な……拳銃が『当たった』んじゃないのかよ!」
暗くてよく分からないが何かの『手品』でもあったのか、それとも単に『撃たれたのを我慢している』のか。それは分からないが、とにかく桜生は平気そうな顔をしている。
そして、撃たれたことへの復讐のつもりなのか、桜生の腕が背後から山下の首に巻き付いていく。
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