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楠は宗家・片桐を尋ねる
「ふむ……珍しい事だな。この茶室に客人を迎えるとはね……いや、喜んでおるのだよ。これでもね」
静かな口調で、片桐は茶を点てている。
対面には、楠源一郎が座していた。
その右腕は石膏で固めて、肩から三角巾で吊るされていた。
片桐は五縄流の『宗家』とは言え、決して人望に秀でているわけではない。何しろ桜生の『師匠』である。むしろ、その傍若無人な戦い振りのせいで『嫌われている』とも言えた。
故に、例え盆正月と云えども片桐の元に客人が来る事は皆無に近いのだ。
「恐れ入ります……ご無沙汰をしておりまして……」
楠が軽く頭を下げる。
「で……如何だった?桜生との対戦は……?」
無論、『結果』について片桐が知らない筈がない。片桐は『感想』を求めているのだ。
「はい……。事前に栗田先生から『侮るな』とは言われておりましたが……」
自然と、楠の視線が下を向く。左の拳に力が入る。
「ふふ……いざ闘ってみると『勝手が違った』か」
茶杓を操る片桐の表情は、やや楽しそうにも見える。
「それで、何か『得る物』はあったかな……?」
すっ……と、片桐が茶碗を楠の前に差し出した。
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