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「あの……ひとつ、伺ってもよろしいでしょうか?」
楠が、片桐の方へ向き直った。
「何だね?」
「一部の報道でも出ておりましたので、すでにご存知の事とは思いますが……実はあの時、道場でボクの先輩に当たる山下巡査が桜生君に発砲しています」
楠としては、どうしても『それ』だけは知りたかった事だ。どうして、桜生は銃弾を受けて尚、平然としていられたのであろうか。
「聞いている。まぁ……別に『そういう事』もあるだろう。何しろ五縄流には『暗術』もあることだしな」
片桐の口調はまるで「何を当然の事を」と言わんばかりである。
「う……っ」
楠が言葉に詰まる。
そうか……確かにそうだ。
考えるまでもなく、五縄流とは『そういう流派』だった。
武術は手段であって目的ではない。例え銃器を用いたとしても勝てばよいのだ。
ならば、『それ』に備えるのもまた必然と言えよう。
であれば、それが何なのかはわからないが、最初から『何らかの対策』がしてあったとしても不思議ではない。暗くてよく分からなかったが、例えば『防弾チョッキ』のような……?
真の『用心』とはそこまでに至るものかと、楠は舌を巻いた。
「で……楠君は『それ』を知りたくて此処に?」
片桐が尋ねるが。
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