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当身の技を修めし巨漢は
五縄流柔術の一派『当身術』、その師範を務める渓の道場は街外れにある。
半世紀も前に建てられた古い道場の看板は一応、『空手』を謳ってはいるが『それ』は建前というものだろう。ごちゃごちゃと説明するのが面倒で、そうしているだけだ。
渓は、そもそもが弟子を取ることに頓着しない性分である。
ごく稀に「弟子にしてくれ」とやってくる物好きも居ないではないが、大抵の場合は少しだけ見て「他に見合う道場がある」と断ってしまうのだ。ある意味、偏屈と言えばそうなのかも知れない。
そんな渓の眼鏡に叶った人物がひとりだけいる。
それが唯一の弟子である、『柏木重道』であった。
柏木は元来、一本木な男で『眼前に大岩ありて其の道を塞ぐのであれば、己が拳で砕き通るのみ』という剛気である。
渓はその豪胆さを気に入って、愛弟子と定めたのだ。
柏木は元々にして空手を嗜んではいたものの、一三〇キロを超える生来の大柄が逆に災いして対戦相手が限られることもあり「ならば空手に己を縛る意味は無し」と悟って渓の弟子となったのだ。
夕刻過ぎ。
いつもの時間に渓が道場に足を踏み入れると、すでに柏木は稽古を始めていた。
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