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「ほほぅ、もう『来た』のか。思いの外、早かったな……」
だが、『その予想』は意外に方向に裏切られた。
「よぉぉぉ……久しぶりじゃねぇか。柏木の旦那よ」
柏木の前に、短く刈り込まれた髪を赤く染めた若い男が立ちふさがる。
「……てっきり桜生かと思ったが……貴様、赤井?だったか。一昨年の空手選手権で手合わせをした覚えがある」
「おぅよ。覚えててくれて助かるぜ。ムダな説明をしなくて済むからなぁ!」
赤井と名乗る男が、ジリ……と間合いを詰めた。
「何の用だ? オレはこれから風呂だ。邪魔すんじゃねぇよ」
ジロリと、柏木が赤井を睨む。まるで『眼中にない』とでも言わんばかりに。
「何の用? 決まってるだろうが! リベンジだよ、リベンジ! テメェにやられた仕返しをしてやろうと思って練習してたのによぉ! ……何だって?空手を止めたぁ?柔術に入ったぁ? 何じゃそりゃ!……しかも『何でもあり』の流派だってぇ……?」
赤井の目尻が嫌らしく下がる。
「丁度いいじゃねぇか。だったらよぉ……『これ』でも良いって事だよなぁ?! ああ?」
そう言って、赤井がジャケットの内ポケットに手を差し込む。そして、出てきたのは。
ギラリ……と光る、大型のナイフだった。
「くくく……泣いて謝るってんなら今だぜ?」
「……愚か者めが」
フン!と柏木が鼻を鳴らす。
「それでやりたいってなら、やってみろ」
「ほぅ……言ったなテメェ! 吠え面かくんじゃねぇぞ!」
言うが早いか、ナイフを構えて赤井が突進してくる。
ズン……!
鈍い音がする。……が。
「……どうした?それで終わりか?」
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