当身の技を修めし巨漢は

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 柏木が、腹の下でナイフを構えている赤井を睨みつける。 「な……何だこりゃぁ! 刃が……刃が身体に刺さらねぇ!」 「当然だ。オレの上着の下にはステンレス鋼板で出来た『鎧』が仕込んであるからな……そんな小さなナイフ如きでは、どうにもならんわ」 「ス……ステンレスの鎧ぃ?!」  驚きの声がすると同時に 「ふん……っ!」  柏木が赤井の襟首を掴み、あっと言う間にこれを軽々と持ち上げる。 「うをぁぁ!」  赤井が虚を突かれて慌てた瞬間。  ドム………っ!  分厚い太鼓を叩くかのような鈍い音が路地に響く。柏木の右正拳が、赤井の胸板に直撃したのだ。 「ご……ごふぅ……」  ドサリ……白目を剥いて、赤井が崩れ落ちる。 「ゴミが……『そんなもの』で、常在戦場を旨とする『五縄流(われわれ)』が驚きなぞせんわ……」  吐き捨てるように呟き、赤井の身体を道端に蹴り込んだ。  するとその時。 「……おや?今度は『本物』か……」  まだ、何処からか殺気が漂って来る。 「いいだろう。今のでは消化不良だったからな! 今度こそ『美味しい思い』をさせて貰うとするか」  柏木は歩きながら、辺りを見渡す。  何処か、適当な場所はないか。  別に舞台はどうでも良かった。何なら『路上(ここ)』でも構わないほどだ。  だが、下手に往来で一悶着起こして警察でも呼ばれると話がややこしくなって困る。出来れば人目に付きにくい場所を選びたいものだが……。  ふと、柏木の足が止まった。  それは、古い建設資材置き場だった。  かつては地元の建設業者が使っていた敷地だが、現在は荷はそのままに打ち捨てられて荒れ放題になっている。『おあつらえ向き』と言えようか。 「ここなら、人目につくまい」  柏木はそのまま、中へと歩を進めた。  そして足から雪駄を脱いで素足になると、じっと辺りを伺う。 「……隠れてないで出てこい。『用事』があるのはお前の方なんだろう?」
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