誘い込んだか誘い込まれたか

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誘い込んだか誘い込まれたか

 じり……。  柏木が辺りを見渡す。  姿は見えないが、チラホラと『何者か』の気配が漂っている。  夜空に雲の姿は無いが、さりとて足元を照らす『明かり』とて無い。  そうか……今宵は『新月』。  だからこその、合間を置かぬ『今』を狙って現れたのか。ふふん、抜け目の無いヤツと言えるのかもな……。  いや……だが待てよ?  ふと、柏木は思い直した。  これがもし桜生なら、楠との一戦では『いつの間にか道場に入られていた』と聞く。  もしも『それ』が本当だとしたら、自分にその気配を『肌で感じる』という事があるだろうか? 少なくとも、柏木は自身がそれほど気配を読むのに通じているとも思っていない。  ならば、だ。  あるとしたら、もしや『ワザと』気配を読ませているのでは……?  ふむ。だとしたら、だ。  なるほど、合点が行く事はある。周囲には手頃な建設資材が山ほど野積みされているではないか。 「ヤツめ、『これ』を上手く利用するつもりか……」  ふん!と、鼻を鳴らす。  良く考えて……見るまで迄もなかった。  普通に考えれば、一.五倍を超える体重差の人間を相手に『まともに打ち合う』筈が無いではないか。五縄流とは『そういう流派』ではないのだから。
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