誘い込んだか誘い込まれたか

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 打撃で打ち合うのは論外としても、組討ちですら有り得ないだろう。合気ですら考えにくい。  であるとしたら。 「ふむ……もしかしたら、さっきの『赤井』も、桜生がけしかけたか……? オレの戦力を探るために」  刃物を使って斬りかかるか、もしくは『暗器』を使うつもりがあったのかも知れない。だが、刃物が『効かない』のは実証してみせた。だとすれば残りは……。 「飛び道具か……あるだろうな」  柏木の口元が、ニヤリと不気味な笑みを湛える。  だが、それもまた良し。  どれほどの物だとしても、それを跳ね除けてみせようぞ!  何しろ自分は研鑽に値する相手(てき)を求めて、自ら『そういう道』に足を踏み込んだのだから。  何が来ようが望む処というものではないか。  その瞬間だった。  柏木の頭上で、何かがフワッと動く気配がした。  「来たかっ!」  『それ』は極太のロープだった。ロープが輪っかを作り、柏木の首に巻き付いたのだ。  ギリリ……!  物凄い力で、ロープが手繰られる。  だが、柏木はそれにビクとも動じることはなかった。片手でガッチリとロープを握りしめ、そのまま比肩なき豪腕で以ってロープの輪をグイとばかりに広げて見せた。  ロープは尚も、強い力で引っ張られている。 「ふん。『この程度』か。舐めるなよ?」  パッ……と、首に巻き付いていたロープを外して放り投げる。  途端に、ロープはビン……と張られ……。 「……っ!」  考えるより早く柏木の身体が反応し、素早く地面を蹴って大きく体を躱した。  土煙が闇に飛び散る。  バシッ!  間髪を置かず、月夜に乾いた音が響き渡る。  よく見ると、柏木の眼前にある建築用の合板に太さが親指ほどもある『鉄杭』が突き刺さっているではないか。  何処からか桜生が投げ飛ばしてみせたのだろう。無論、刺りどころが悪ければ絶命に至りても不思議はない。 「ほう……やるじゃないか!」  にやり、と柏木が笑った。  
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