『その男』はまるで獣の如き異質さで

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『その男』はまるで獣の如き異質さで

 楠源一郎は師匠である栗田から急遽呼び出しを受け、道場に顔を出していた。 「……そうですか、よりにもよって『最初』がボクですか……随分とナメられたものですね」  楠はそう言って、端正な顔立ちに苦笑いを浮かべた。  今風の、という言い方がよく似合う男だ。  武道家らしい体格にも恵まれてはいるが、桜生のような無骨さはない。むしろ、優しげな目つきには爽やかさが滲み出ている。髪型を整えるにも、毎朝三〇分以上を掛けるという現代っ子だ。 「一七歳でしたっけ?桜生君は。ボクより四つ下ですか……まぁ、歳はともかくとして『汲みやすし』と思われたのなら、それは少々心外ですね」  フン、と肩をひとつ揺らして笑みを浮かべる。 「あまり……桜生君を軽く考え無い方が良いぞ? 何しろ『あの』宗家・片桐先生の秘蔵子だからな。一通りの格闘家で無いのは間違いない」  栗田が楠を(たしな)めた。 「御心配を頂く程の事はありませんよ、先生。……何、ボクは宗家の跡目争いなんぞに興味はありませんから。適当にあしらって……『負けた』という事にしておいてあげますよ、それでいいんでしょ?」  茶目っ気混じりな楠に気負った感は無い。それこそが己に対する『絶対の自信』の証。
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