『その男』はまるで獣の如き異質さで

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「……うん? 何者ンじゃ、アイツ……?」  最初に気づいたのは、部長の大繁だったそうだ。  道場の入り口に不気味な男が立っている。格闘家らしい恵体ではあるが、友好的な相手で無いのは嫌味な目付きを見れば明らかだ。  一瞬、入部の申し込みか?と思わなくもなかったが、それにしては雰囲気がおかしい。男から漂ってくる殺気が、只事では無かった。  『職業病』と言えばそうかも知れないが、大繁は思わずその男の『拳』に眼がいった。  ……それは尋常では無い『厚み』だった。その鍛えられた拳は、相当な修練を積んだ格闘家である事を雄弁に物語っている。  ……コイツ……まさか、道場破りとかか……?  大繁の背中に寒気が走った。脳の奥で本能が『ヤバイ』と告げている。  男は、じっと中の様子をうかがっていた。 「……おい、何じゃお前!」  副部長の木暮が気づいたようだ。  「……」  男はその質問に答えることなく、舐め回すかのように道場を見渡している。 「黙っとられても分からんわ、用件を言わんかい!」  木暮の苛ついた声が道場に響く。  道場の部員三四名が一斉に稽古の手を止めて、その男……『桜生』に注目する。  すると、男は初めて口を開いた。 「……楠源一郎、という男に会いに来た……『ここに来ればいる』と聞いたが……いないようだな」
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