『その男』はまるで獣の如き異質さで

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 桜生の視線は大繁の方を向いていない。 「楠か? アイツは今、用事があって出かけとる。何ぞ用事か?」  ずい……と大繁が前に出た。  大事な大会前だ。重要な主力選手を、様子の分からぬ人間と絡ませる訳にも行かない。 「用事……? お前には関係ない事だ」  フン、と桜生が鼻で嗤って見せる。大繁のことなど眼中に無いと言わんばかりだ。  やはり、コイツはヤバい奴だ……。  大繁は『楠に出会う前に、ここで潰しておくべき』と考えたという。ある意味、その直感は当っていたと言える。 「お前……楠と『構えよう』ってんじゃねぇよな? 楠は大会を控えて大事な身だ。喧嘩の相手を探してるってんなら、オレが相手してやるぞ?」   どう考えても、純粋に柔道の形式に拘って戦うという素振りではない。  それは『試合』でもなく『稽古』でもなかろう。無頼な『喧嘩』と言って差し支えあるまい。  クク……と、桜生が嗤った。 「やめておけ。お前如きでは練習台にもならん……怪我をしてもつまらんぞ?」  『警告』ではない。これは『挑発』であると、大繁は受け取った。  思わず顔が引き攣る。
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