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仮にも有力校として名高い至秀館柔道の部長を務める自分が『一山いくら』の籠売りとして扱われることを、そのプライドが許さなかった。
「ンだと、この野郎……いいだろう、こっちに来いや。……ちっと、揉んでやっからよ」
親指を反り返して、背中側にある道場畳の中央を示す。
後から思えば、大繁としてはここは大人の態度として『受け流す』という選択肢が妥当であるのかも知れなかった。
しかし余りに舐めた態度であった故に、桜生の挑発に易々と乗ってしまったのか。或いは人数の圧倒的な差が、大繁の心を大きくしてしまったのかも知れないが……。
周りの部員が遠巻きして固唾を飲んで見守る中、大繁と桜生が向かい合う。
「……行くぞ、オラ!」
グイっ……と、大繁の左手が桜生の着ているシャツの首元を掴み取る。
こいつ……柔道は素人か?
易々と掴めた襟に、大繁の心へ疑念が沸く。普通の柔道家なら、まず相手に道着を取らせないことが現代の試合においては初歩であると言えるのに。
大繁の得意は、並外れた握力にあった。
一度掴んだ道着は絶対に外れないと定評がある。そして一度掴まれてしまえば、後は道場の畳に全力で叩きつけられるだけだ。
だが、桜生に動じる気配は全く無かった。
次の瞬間。
それはまるで『猫のようであった』と。『人の動きに無いものであった』と、部員達は感じたという。
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